出力制御というリスク
再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まったのは2012年ですが、当時の世相としては東日本大震災での福島原発事故があり、脱原発、クリーンなエネルギーを推進しようという世論が根強くありました。そこから10年以上が経過し、再生可能エネルギーは大きく普及しましたが、当時と比べて現在の日本のエネルギー事情は良くなったのでしょうか?
2011年度の再生可能エネルギーの電源構成比率は10.4%でしたが、2022年には21.7%まで増加しました。その中で一番メジャーなのは、やはり太陽光発電で2022年時点の電源構成が9.2%です。(2022年度資源エネルギー庁資料より引用) このように現在の日本の電源の約5分の1は再生可能エネルギーで賄われているのです。ここまで再生可能エネルギーが普及するのに欠かせない要因として、固定価格買取制度という20年間(住宅用は10年間)は電力会社に発電した電気を買い取ってもらえる保証があるということです。この保証があるからこそ、導入時に金融機関からの融資を受けることができ、安定的に返済を進めることができました。しかし、近年この前提が揺らぎ始めています。
太陽光発電所を運営するうえで、盗難リスクや災害リスクなど様々なリスクが存在しますが、その中でやはり気になるのが出力制御(出力抑制)ではないでしょうか?出力制御が起きると、再生可能エネルギー発電事業者にとっては予定していた収益が入らなくなるので、採算性が大きく悪化してしまいます。これにより太陽光発電所を損切りで売却するような事例も増加しています。
出力制御はなぜ起きる?
電気は同時同量の原則というものがあります。使用する需要と発電する供給がピッタリと一致しないといけないのです。供給不足、供給過剰になると電気の周波数が乱れてしまい、最悪のケースとして大規模停電の原因になってしまいます。2018年9月に発生した北海道全域の大規模停電“ブラックアウト”は、この電力需給バランスの崩壊が原因でした。
お金であれば、不足した場合は借りたり、余裕がある時は貯金したりできますが、電気はそんなに簡単ではありません。蓄電池があればいいのでは?と思われるかもしれませんが、価格が高く費用対効果が合わないので導入への障壁が高いのが現状です。その為、必要な時に発電をしなければならず、需要と供給のバランスが崩れそうな時には、出力制御をしないといけないのです。
では出力制御はどのような環境で起きやすいのでしょうか?出力制御が起きやすい条件としては、4月から6月の晴天日です。一般的に太陽光発電所の発電量が多い月というのは、日照時間が長く日射量が多い4月から6月です。一方で4月から6月というのは冷暖房を使用しなくても快適に過ごせる月でもあるので、供給が需要を上回ってしまうのです。
2024年度の出力制御見通し
今年、どのくらいの出力制御が発生する見込みなのかを、見てみましょう。
電力管区 | 出力制御率見通し (2023年度更新) | 出力制御率見通し (2024年度) |
---|---|---|
北海道 | 0.01% | 0.20% |
東北 | 0.93% | 2.50% |
東京 | ー | ー |
中部 | 0.26% | 0.60% |
北陸 | 0.55% | 1.10% |
関西 | 0.20% | 0.70% |
中国 | 3.80% | 5.80% |
四国 | 3.10% | 4.50% |
九州 | 6.70% | 6.10% |
沖縄 | 0.14% | 0.20% |
電力管区による格差
電力管区ごとの出力制御予測を見ますと、九州・中国・四国が際立って高くなっており、大都市圏の中部・関西が低くなっています。東京は出力制御開始という噂もありましたが、2024年度も実施されない予定です。なぜ東京電力管区が抑制されないか?それは再生可能エネルギーの発電量以上に需要多いいからです。首都圏は居住者人口が多く、オフィスビル、工場も多い為、旺盛な需要があります。このことから発電しても全て消費されてしまいます。一方で九州、四国、中国などは人口が首都圏に比べると人口が少なく、産業用の電力需要も少ないです。このような背景から出力制御が起きやすくなります。
なぜこのようになったのか?
首都圏に太陽光発電所を建設すれば、出力制御を受けないというのは共通認識ですが、やはり土地価格の高さがネックになっています。FIT単価は全国共通価格ですので、コストが安ければ安い程、投資効率が上がります。九州で爆発的に普及したのは地価の安さと日照量でした。地方に行けば行くほど地価が安いので、採算性を考えた結果、地方に偏重する結果となっているのです。また、日中の需要を考慮せずに太陽光発電所を増やし過ぎたことも理由としてあります。
出力制御の影響
太陽光発電所が増えたことにより経済的なメリットがあるとすれば昼間の電力市場価格が低減傾向にあることでしょう。需要と供給のバランスによって価格が決定されるのが市場価格です。特に九州の昼間は0.01円/kwhという破格の単価がつきます。1,000,000kwh使用する需要家でも10,000円なのです。このように電力管区によって電力市場価格に差がつき、時間帯によっても大きな差が付きます。再生可能エネルギーの固定価格買取制度によってもたらされたのは、電力価格の地域間格差、時間帯別格差ではないでしょうか?
今後の見通し
発電事業者の目線で1番気になるのは、今後出力制御が増えるのか?減るのか?ですが、恐らく改善はしないと思われます。さらに中部、関西圏でも出力制御が増加する、東京電力管区でも出力制御が始まると予想されています。理由としては、2050年に向けて再生可能エネルギーの開発は進んでいます。日本の人口が減少を辿っており、電力需要が、増えることは難しいと予想されるからです。
希望としては、円安を背景として外資系が日本に工場建設し、産業用の電力需要が増加することですが、一朝一夕には難しい課題と言えます。また、蓄電池の価格水準が下がることにより、系統用蓄電池の普及がカギを握ると思われます。昼間の余剰電力を蓄電し、夜間に利用するサイクルができればこれらの状況は劇的にかわるかもしれません。
まとめ
ここ数年、メディアで電力不足という言葉を聞く機会が増えました。受給逼迫により節電要請が出されるなど、とても安定したエネルギー事象とは言えない状況となっております。一方で出力抑制により電気を捨てている状況でもあります。補助金を出し、労力をかけて発電所建設して、昼間の電気が余るから、買い取らない。こんなアンバランスな状況は早く解消しなければなりません。