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あなたの太陽光発電所は大丈夫?2024年度の出力制御見通し

出力制御というリスク

日本で再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)がスタートしたのは2012年のことです。当時の背景には、2011年に発生した東日本大震災と、それに伴う福島第一原発事故がありました。原子力発電に対する不安や反発が社会的に高まり、国民の間では「脱原発」「クリーンエネルギーの推進」への関心が急速に強まった時期でした。このような時代の空気を受けて始まったFIT制度は、再生可能エネルギーの普及を支える柱として大きな役割を果たしてきました。制度の最大の特徴は、太陽光や風力などで発電した電気を、一定期間(住宅用は10年、産業用は20年)にわたり固定価格で電力会社が買い取ることを国が保証するという点です。この「収益の見通しが立てやすい制度」があったからこそ、個人や事業者は金融機関からの融資を受けやすくなり、全国で数多くの発電設備が導入されていったのです。

それから10年以上が経過した現在、日本の再生可能エネルギーの電源構成比率は2011年度の10.4%から、2022年度には21.7%へと倍増しました。特に存在感を高めているのが太陽光発電で、2022年度の時点で日本全体の電源構成に占める割合は9.2%に達しています(出典:資源エネルギー庁 2022年度資料)。この数字を見れば、「日本でも再エネがしっかり普及してきた」と感じられるかもしれません。しかし、現場では別の課題が深刻化しつつあります。

太陽光発電所を運営するうえで無視できないのが、出力制御(出力抑制)のリスクです。出力制御とは、電力の供給量が需要を大きく上回った際に、電力系統の安定を守るため、発電側に対して一時的に電気の供給を停止・制限するよう要請される仕組みのことです。近年では、特に春や秋の晴天で電力需要が少ない時期に、太陽光発電による出力制御が全国各地で頻発するようになっています。この制御が実施されると、発電事業者は発電したはずの電気を売ることができず、予定していた収益を得られなくなるため、経営計画が大きく狂うこともあります。その結果、採算が合わなくなった発電所を「損切り」して売却するケースも増加しており、特に中小事業者にとっては深刻な問題です。せっかくFIT制度によって安定収益が見込めると思って始めた再エネビジネスが、出力制御によって不安定化するという、制度設計の限界が浮き彫りになっているとも言えます。

出力制御はなぜ起きる?

私たちが日常的に使っている電気には、他のエネルギーや資源と大きく異なる性質があります。それが、「同時同量の原則」です。これは、電力の供給量と需要量を常にリアルタイムで一致させなければならないという、電力システムにおける基本ルールです。たとえば、水やガス、あるいはお金であれば、不足したときに補充したり、余った分を貯めておくことができます。しかし、電気はそう簡単にはいきません。供給が不足すれば、電力の周波数が低下し、過剰になれば周波数が上昇します。このバランスが大きく崩れると、送配電システムに深刻な影響を与え、最悪の場合は大規模な停電(ブラックアウト)を引き起こしてしまいます。

実際に、2018年9月に発生した北海道全域での大規模停電(北海道ブラックアウト)は、電力の需給バランスが一気に崩壊したことが直接の原因でした。このときは地震により発電所が停止し、供給力が一気に落ち込んだため、他の発電所や送電系統も連鎖的にダウンし、全道が停電状態に陥りました。「電気が余るなら、貯めておけばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。たしかに、蓄電池を使えば余剰電力を一時的に保存することは可能です。しかし現時点では、大型蓄電池の導入には高額なコストがかかるうえ、容量や寿命、設置スペースなどの課題も多く、まだ実用面でのハードルが高いのが実情です。

そのため、電力業界では「貯める」よりも、「発電量を調整する」ことが基本的な対応策となっています。特に、再生可能エネルギー(太陽光・風力など)の発電量が需要を上回りそうなときには、やむを得ず「出力制御(出力抑制)」を行う必要があります。これは、発電事業者に対して一時的に発電量を抑えるよう指示を出し、系統全体の安定を保つための措置です。

では出力制御はどのような環境で起きやすいのでしょうか?出力制御が起きやすい条件としては、4月から6月の晴天日です。一般的に太陽光発電所の発電量が多い月というのは、日照時間が長く日射量が多い4月から6月です。一方で4月から6月というのは冷暖房を使用しなくても快適に過ごせる月でもあるので、供給が需要を上回ってしまうのです。

2024年度の出力制御見通し

今年、どのくらいの出力制御が発生する見込みなのかを、見てみましょう。

電力管区出力制御率見通し
(2023年度更新)
出力制御率見通し
(2024年度)
北海道0.01%0.20%
東北0.93%2.50%
東京
中部0.26%0.60%
北陸0.55%1.10%
関西0.20%0.70%
中国3.80%5.80%
四国3.10%4.50%
九州6.70%6.10%
沖縄0.14%0.20%

電力エリアによる格差

再生可能エネルギーの導入が進む中で、地域ごとの出力制御の発生頻度に大きな差が生まれています。資源エネルギー庁などが公開している電力エリア別の出力制御予測データを見てみると、九州・中国・四国エリアでの出力抑制の頻度が非常に高くなっているのに対し、中部や関西などの大都市圏では比較的少なくなっています。特に注目されるのは東京電力エリアです。2024年度も引き続き、出力制御は実施されない予定となっており、他地域との違いが際立っています。では、なぜ東京では出力制御が行われないのでしょうか?

その最大の理由は、需要の大きさにあります。東京を中心とする首都圏は、日本でも最も人口が密集しているエリアであり、家庭の消費電力はもちろん、オフィスビル、商業施設、工場などの電力需要が非常に高いのが特徴です。そのため、発電された電気は常に高い需要に吸収され、余剰電力が発生しにくいのです。

一方で、九州・四国・中国地方などの地方エリアでは、人口が少なく、産業規模も限定的なため、電力需要が東京に比べて低い傾向があります。このような需要と供給のアンバランスが、出力制御の頻発を招いているのです。

なぜ再エネ発電所は地方に集中しているのか?

「東京に太陽光発電所を建てれば出力制御を回避できる」というのは業界ではよく知られている事実ですが、現実的には首都圏への設置は困難です。その最大の理由が土地価格の高さにあります。再生可能エネルギーの買取価格(FIT価格)は全国一律ですが、発電所の建設コストは立地条件によって大きく異なります。地価が高ければそれだけ初期投資がかさみ、投資効率が低下します。逆に、九州など地価が安く、かつ日照時間が長いエリアでは、初期費用を抑えながら高い発電量を期待できるため、事業者にとって魅力的な投資先となってきました。

その結果として、太陽光発電所は電力需要の低い地方に偏って建設される傾向が強まりました。さらに、日中の需要バランスを考慮せずに発電容量だけを拡大したことも、出力制御の頻発を招いた一因です。

出力制御の影響

太陽光発電所が全国に増えたことで、日本の電力市場価格(JEPX価格)には大きな変化が生まれています。その中でも特に注目すべきなのは、昼間の電気料金が大幅に下がっている地域があるという点です。これは、電力自由化と再生可能エネルギーの拡大によって生まれた、経済的な恩恵のひとつとも言えるでしょう。

電力市場では、需要と供給のバランスに応じて価格がリアルタイムで決定されます。つまり、発電量が需要を上回れば価格は下がり、逆に需要が供給を上回れば価格が上がる仕組みです。太陽光発電のように昼間に大量の電気を発生させる電源が増えると、その時間帯は供給過多となり価格が下落する傾向があります。実際、九州電力エリアでは昼間の電力市場価格が極端に低下することがあり、1kWhあたり0.01円という異例の安値がつくことも珍しくありません。これは、例えば月に100万kWhを使用する大規模需要家にとっても、電気料金がわずか1万円程度で済むという非常に大きなメリットとなります。

このように、再生可能エネルギーの導入が進むことで、電力市場価格には「地域間格差」と「時間帯別格差」が広がってきているのが現状です。特に日照条件に恵まれ、太陽光発電所が多く設置されている九州や中国・四国エリアでは、晴天の昼間に発電が集中するため、電力価格が極端に下がることが頻発しています。一方で、需要の多い首都圏や都市部では、同じ昼間でも価格が比較的高止まりしており、エリアごとに価格差が生まれています。また、夜間になると太陽光発電が機能しないため、再び火力発電などが主力となり、価格が上昇する時間帯もあるのです。

FIT制度がもたらした市場構造の変化

この価格変動の背景には、2012年から導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が深く関わっています。FIT制度によって、事業者は一定期間、一定価格で電気を買い取ってもらえるため、採算性が確保しやすくなり、特に土地が安く日照に恵まれた地方で太陽光発電所の建設が一気に進みました。しかしその結果として、電力市場には「特定エリア・特定時間帯に発電が集中する」という偏りが生まれ、供給過剰による価格低下や出力制御が発生しやすい構造ができてしまったのです。

2023年5月1日 九州電力エリア エリアプライス

今後の見通し

太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの発電事業者にとって、最も気になるのはやはり「今後、出力制御が増えるのか減るのか?」という点ではないでしょうか。残念ながら、現時点では出力制御が緩和される見通しは立っていないのが実情です。むしろ今後は、これまで比較的制御が少なかった中部電力エリアや関西電力エリアでも出力制御が増加する可能性が高く、さらに東京電力エリアにおいても出力制御の導入が予測されています。

その背景にあるのは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が引き続き加速していることです。一方で、日本全体としては人口減少により、電力需要が今後大きく増加する見込みが乏しい状況にあります。発電量は増えるが、使う側の需要は横ばい〜減少傾向。この需給ギャップが出力制御の頻発を招く大きな要因となっています。

今後の展望として、出力制御を緩和できる可能性があるとすれば、次の2つが大きな鍵を握ると考えられます。

1. 産業需要の拡大

理想的なのは、国内における産業用電力需要の増加です。たとえば、円安の影響で海外資本が日本に製造拠点(工場)を新設し、国内の電力消費が活性化することが期待されます。工場などの大口需要家が増えれば、昼間の余剰電力を消費できる環境が整い、結果として出力制御の頻度を減らすことが可能になります。ただし、こうした産業誘致は政策支援やインフラ整備を伴う中長期的な取り組みが必要であり、一朝一夕に進む課題ではありません。

2. 系統用蓄電池の普及

もうひとつの鍵は、蓄電池の価格低下と普及拡大です。特に、系統用蓄電池の導入が進めば、昼間に発電された余剰電力を一時的に蓄え、夜間やピーク時間帯に活用することで、需給バランスの調整が容易になります。現在はまだコスト面の課題がありますが、技術革新と市場拡大によって蓄電コストが下がれば、電力の有効活用と出力抑制の緩和が同時に実現する可能性があります。

まとめ

ここ数年、ニュースやメディアで「電力不足」という言葉を耳にする機会が増えてきました。特に夏や冬など、電力需要がピークを迎える時期になると、政府や電力会社から「節電要請」や「電力需給ひっ迫警報」が発令されるケースも見られ、電力供給の安定性に対する不安が高まっています。しかしその一方で、現実には昼間に発電された再生可能エネルギーが使い切れず、出力制御(出力抑制)によって電気が“捨てられている”という矛盾した状況が存在しています。

太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及を後押しするために、これまで国は多額の補助金を投じ、固定価格買取制度(FIT)を整備してきました。多くの発電事業者が制度を活用し、費用と時間をかけて全国各地に発電所を建設してきたのです。ところが、実際には昼間の時間帯に電気が余ってしまうため、電力会社がすべてを買い取らず、一部の発電を停止する「出力制御」が行われているのが現実です。つまり、発電所は電気を作れるにも関わらず、それが利用されないという“もったいない”状況が常態化しているのです。

現在の電力供給体制は、「あるときは足りず、あるときは余る」という、極端な需給バランスの不均衡を抱えています。夜間や冬季など、需要が高まる時間帯には電力が不足し、逆に日中の晴れた日には発電量が供給過多となり出力制御が必要になる――こうしたミスマッチの解消は、日本のエネルギー政策における急務だと言えるでしょう。

蓄電技術の普及や、需要側の調整機能(デマンドレスポンス)、系統整備など、多方面からの対策が求められていますが、制度やインフラの整備はまだ追いついていないのが実情です。今後の日本にとって重要なのは、再生可能エネルギーを「発電するだけでなく、いかに有効に活用できるか」を考えることです。電力を必要な時間・場所に安定して届けるための技術革新と、制度の見直しが不可欠です。「電力不足で節電要請」「一方で発電された電気が余る」というアンバランスな状況を解消するために、エネルギーの需給バランスを見直し、持続可能な電力システムの構築に向けた抜本的な改革が今、求められています。

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未来のエネルギーを、今こそ本気で考える

エネルギー資源が限られた日本において、私たちがこれまでと変わらぬ豊かな暮らしを続けていくためには、新しい電力の「つくり方」と「使い方」を真剣に見直す必要があります。 環境への負荷を最小限に抑えながら、持続可能なエネルギー社会を実現する――それは国や企業だけでなく、私たち一人ひとりが取り組むべき課題です。 今こそ、再生可能エネルギーの可能性に目を向け、賢く選び、スマートに使う。その選択が、次の世代の未来を支える力になります。

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