厳しいインフレ時代に何ができるのか?
2020年から続いたコロナ禍も過ぎ去り、飲み会やイベントも解禁され日常生活が戻ってきました。それと同時に円安に拍車がかかり物価上昇が始まりました。これが、われわれの生活に大きな影響を及ぼしています。2023年12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で2.6%の上昇でした。10万円の支出をする家計なら2,600円の増加になります。統計値で見ればこのような数字ですが、実生活においては、食料品全般がコロナ禍前と比べ10%~30%の大幅値上げになっており、食品だけでなく、日用品、衣服、ガソリン価格など身の回りのありとあらゆる物が値上がりしています。
一方で収入面では、政府統計によれば所得は上昇傾向とされていますが、一部の大企業やグローバル企業を除き、物価上昇で余裕の無い中小企業では横ばいが続いており、支出だけが増えています。
節約をしたいと思いながらも、インフレの免疫が少ない日本人にとって、全方位的に値上げされる世の中では何から手を付けてよいか分からないのではないでしょうか?
実はあります!それが電気代です。このようなインフレな世の中だからこそ、改めて電気を選ぶことの重要性が見直されているのです。
参考 総務省 消費者物価指数 2023年(令和5年)12月分
電気って選べるの?
今までは「旧一般電気事業者」と呼ばれる地元の大手電力会社から決められた価格で買うしか選択肢がなかったのです。大手電力会社の1社独占だからこそ、競争の原理が働きません。メニューの種類も少なく、価格水準も高いままでした。それが、どこの電力会社から電気を買うかを、自分の判断で選べるようになりました。これが電力自由化です。電力が自由化され参入事業者が増えたことにより、選べるメニューが増え、競争の原理により価格水準も低減傾向にあります。この電力自由化こそが電気代見直しの大きな可能性に繋がるのです。
電力自由化とは?
2016年に電力の小売業への参入が全面自由化され、家庭や商店も含む全ての消費者が、「新電力」と呼ばれる電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになった制度のことです。
電力自由化という言葉は聞いたことがあるという方も多いでしょうが、実は20年以上も前から行われていた制度です。「えっ、20年以上前?」という方も多いかもしれませんが、それは特別高圧や高圧電力のような大口需要家のみが対象であったので、われわれ一般家庭には恩恵がありませんでした。だから一部の企業間だけの話で留まり、世間で話題にのぼることも無かったのです。全面自由化以前は、低圧電力・電灯契約の一般消費者も自分に合った電力会社を選ぶことができるようになりました。
電力自由化と新電力の仕組みは?
大手電力会社は自社の発電所で発電された電気を需要家へ供給しています。一方で新電力と呼ばれる電力会社の多くは、自社で発電設備を所有していません。そこで需要家に供給する電力の多くをJEPX(日本卸電力取引所)という卸売市場から電気を仕入れて、それを需要家に供給しています。中には資本力があり多数の顧客を保有している新電力が大手電力会社と提携して、ボリュームディスカウントで安く卸してもらうケースもありますが、多くの新電力はJEPXを利用している現状があります。
新電力は自由な料金設定で多彩なメニューを展開しています。一例としてはスマートフォンとセットやインターネットサービスとコラボで割引されるメニュー、ガスとセットで割引されるメニュー、割引は無いがポイントが付与されるメニューなど、グループ会社との相乗効果を図ったサービスが出現しました。その他にも昼間電力や夜間電力が安いメニューなど、特定条件によって割引率が変動するメニューもあります。これらの多彩なサービスから自分にとって一番メリットが出るかを選ぶことにより、電気代を削減することが可能になるのです。
どのくらいの方が新電力を利用しているのでしょうか?
2016年の全面自由化から7年が経過して、どのくらいの消費者が新電力を利用しているのでしょうか?メリットを感じた殆どの消費者が新電力に切り替えてしまったのでしょうか?新電力の利用者の割合については、2023年3月時点で全販売電力量に占める新電力のシェアは約17.7%、低圧分野のシェアは約23.8%となっています。全体で2割未満という答えに「えっ、意外と少ない」と思われた方もいるでしょう。この全体で2割未満というシェアが多いのか少ないのか検証してみましょう。
電力全面自由化より前にMNPという番号そのままで、自由に乗り換えが可能になったスマートフォン市場があります。スマートフォン市場では、通信設備を保有している大手キャリア(MNO)と呼ばれるdocomo、au、softbank、楽天モバイルがおり、通信設備を持たない格安スマホキャリア(MVNO)と呼ばれるイオンモバイル、ocnモバイル、UQモバイルなどの新規参入事業者がおり、熾烈なシェア争いを繰り広げている業界です。値段は高いが大容量のデータプランを提供する大手キャリアと、小容量のデータプランを格安で提供するMVNOの競争なのです。では、どのくらいの人が格安スマホを利用しているのでしょうか?
格安スマホ(MVNO)をメイン回線として利用している消費者の割合が9%というデータがあります。電力自由化より前から自由化されていたスマートフォン市場の方が、たった9%なのです。これと比べますと新電力の方が遥かに普及しているという見方もできます。とはいえ、全需要家の五分の一なので、新電力への切り替え余地はまだまだあると言えます。
資源エネルギー庁 電力・ガス小売全面自由化の進捗と最近の動向ついて
日本には電力会社は何社あるの?
皆さんは日本に電力会社が何社くらいあると思いますか?おそらく思いつくのは東京電力や関西電力などの大手事業者だと思いますが、実際にはなんと728社もあるのです。(資源エネルギー庁 登録小売電気事業者一覧 令和6年1月22日現在)実際には地域限定で供給している電力会社や特別高圧・高圧電力だけ供給している電力会社もありますので、利用できない新電力もあります。それでも比較対象は非常に多いでしょう。皆さんの身近にどのような電力会社があるのか、一度調べてみてはいかがでしょうか。
新電力を利用するリスクとは?
新電力を検討する際に「新電力が倒産した場合は、停電するのですか?」と聞かれることが多いです。大手電力会社の方が安心という理由で高いままの電気を利用されている方が多いのが現状です。しかし、新電力が倒産した場合でも、停電してしまうことはありません。新電力が倒産しても、家庭用の場合は大手電力会社が供給することになっており、特別高圧・高圧電力の場合は一般送配電事業者が最終保障供給という名目で送電する仕組みが出来上がっているので、ただちに停電してしまうことはありません。
では、新電力に替えた場合のリスクは無いのでしょうか?実はあります。
一番大きなリスクは価格上昇リスクです。前述の通り新電力はJEPXという卸売市場から電気を仕入れているので、この卸売市場の価格が高騰した場合には、消費者向けの請求価格が上がってしまうのです。この内容については改めてゆっくりと書きたいと思います。
まとめ
電気代が上がれば事業者の製造コストが上がるため、最終的には消費者が物価上昇という形で負担しなければなりません。もし、事業者のコストを少しでも下げることができたら最終的には消費者の負担は削減されるでしょう。最近では世界の物価や人件費と比較されて、まだまだ上げなければいけないという論調が支配的ですが、収入が上がらない状態で、物価だけ上がっては生活が成り立ちません。このような環境下で少しでも生活コストのお役に立てればと思います。
電気を専門に取引している市場があるって本当? 日本国内で株式や為替など様々な金融商品が取引されているのはご存じかと思いますが、電力を取引している市場があるのはご存じですか?電気が市場取引されていると聞いて驚かれた方もいるのではないで[…]