関西エリアで初めての出力制御
以前のブログで、パワーコンディショナーの故障が復旧し、春以降は順調に発電できるようになったとお伝えしました。しかし、ついに覚悟していた事態が訪れました。それが「出力制御」です。これまで出力制御といえば、九州電力エリアや四国電力エリアで頻繁に発生するもので、東京電力や関西電力エリアではあまり実施されていませんでした。私が関西エリアの太陽光発電所を選んだ理由も、出力制御のリスクが少ないと考えていたからです。
しかし、2024年に入り、関西電力エリアでも初めて出力制御が実施されました。その背景には、電力の「供給過多」があります。つまり、太陽光発電などの再エネ電源が一時的に電力需要を上回ったため、系統の安定を守るために出力を抑制する必要が出たのです。
出力制御とは?オンラインとオフラインの違い
「出力制御」と聞くと単に発電量が減るイメージを持つかもしれませんが、実はその実施方法には2つの種類があります。それがオンライン制御とオフライン制御です。
- オンライン事業者:インターネット回線を通じて遠隔から出力制御を実施できる発電所。
- オフライン事業者:遠隔からの制御ができず、出力制御指示に応じられない発電所。
この違いにより、出力制御の方法や実施主体が異なってきます。
「オンライン代理制御」の仕組みとは?
出力制御の現場で活用されているのが「オンライン代理制御」という仕組みです。これは、オフライン事業者が本来行うべき出力制御を、代わりにオンライン事業者が実施するものです。具体的には、オフライン発電所は制御せず通常通り発電を継続しますが、その分をオンライン発電所が出力制御を実施して需給バランスを調整します。制度上は、オフライン事業者が制御を行ったものとみなされ、オンライン事業者はその分のFIT(固定価格買取)による対価を得る仕組みになっています。この制度により、系統の安定性を確保しつつ、制御不能なオフライン事業者との公平性も保たれるよう設計されているのです。
資源エネルギー庁 経済的出力制御(オンライン代理制御)の精算方法等について

経済的出力制御イメージ
簡単に説明すると、「オフライン発電所の出力制御分を、オンライン発電所が肩代わりしている」という仕組みです。具体的には、本来制御されるべきオフラインの太陽光発電所の代わりに、オンライン制御に対応した発電所が実際の出力制御を受け、その分の損失を補う形で金銭的な精算が行われます。
私の発電所はオフライン型のため、実際に発電が止められることはありません。しかし、オンライン代理制御の対象となった分については、精算明細の中で売電金額から徴収されていました。その結果、実際の発電量に関係なく、売電収入が減額される形で入金されていたということになります。
精算比率により売電金額を精算
具体例として、関西電力エリアにおける出力制御の影響を見てみましょう。2024年4月の実績では、オフライン型の太陽光発電所は「6.54%」相当の売電額が差し引かれる結果となりました。一方で、オンライン制御対応の発電所は「5.06%」分の補填を受け取れる仕組みになっています。これは、代理出力制御制度に基づいて、制御負担をオンライン側が肩代わりしているためです。
なお、精算のタイミングは発電所の区分によって異なります。特別高圧および大口高圧の発電所では2024年6月に精算され、小口高圧や低圧の発電所については2024年7月に売電精算が実施される予定です。
代理制御実施月 | 精算月 特別高圧/高圧大口 | 精算月 高圧小口/低圧 | 精算比率 オンライン制御事業者 | 精算比率 オフライン(代理)事業者 |
---|---|---|---|---|
2024年4月 | 2024年6月分 | 2024年7月分 | 5.06% | -6.54% |
それでは電力エリアごとにどのくらい出力制御が行われているかを見てみましょう。
北海道電力エリア
代理制御実施期間 | 精算対象月 高圧/特別高圧 | 精算対象月 低圧 | 精算比率 オンライン事業者 | 精算比率 オフライン事業者 (10kW~500kW) |
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2024年4月1日~ 2024年4月30日 | 2024年6月分 | 2024年7月分 | 0.06% | -0.93% |
2024年5月1日~ 2024年5月31日 | 2024年7月分 | 2024年8月分 | 0.08% | -1.15% |
2024年6月1日~ 2024年6月30日 | 2024年8月分 | 2024年9月分 | - | - |
2024年7月1日~ 2024年7月31日 | 2024年9月分 | 2024年10月分 | - | - |
東北電力エリア
制御実施期間 | 精算比率 オンライン事業者 | 精算比率 オフライン事業者 (10kW~500kW) |
---|---|---|
2024 年 4 月分 (4 月 1 日~4 月 30 日実施分) | 0.90% | 14.73% |
2024 年 5 月分 (5 月 1 日~5 月 31 日実施分) | 1.22% | 19.47% |
2024 年 6 月分 (6 月 1 日~6 月 30 日実施分) | 0.00% | 0.01% |
2024 年 7 月分 (7 月 1 日~7 月 31 日実施分) | 0.00% | 0.00% |
2024 年 8 月分 (8 月 1 日~8 月 31 日実施分) | 0.00% | 0.00% |
中部電力エリア
代理制御実施月 | 精算月 | オンライン制御事業者 | オフライン(代理)制御事業者 |
---|---|---|---|
2024 年 4 月 | 2024 年 7 月検針分 | 1.03 % | -2.15 % |
2024 年 5 月 | 2024 年 8 月検針分 | 2.17 % | -3.66 % |
2024 年 6 月 | 2024 年 9 月検針分 | 0.39 % | -1.05 % |
2024 年 7 月 | 2024 年 10 月検針分 | 制御・精算なし | |
2024 年 8 月 | 2024 年 11 月検針分 | 制御・精算なし |
北陸電力エリア
制御実施期間 | オンライン事業者 | オフライン事業者 |
---|---|---|
2024年4月分 (4月1⽇〜4月30⽇実施分) | 2.90% | -17.47% |
2024年5月分 (5月1⽇〜5月31⽇実施分) | 0.76% | -5.02% |
2024年6月分 (6月1⽇〜6月30⽇実施分) | ー | ー |
2024年7月分 (7月1⽇〜7月31⽇実施分) | ー | ー |
2024年8月分 (8月1⽇〜8月31⽇実施分) | ー | ー |
参照 北陸電力送配電株式会社
関西電力エリア
代理制御実施月 | 精算月 特別高圧/高圧大口 | 精算月 高圧小口/低圧 | 精算比率 オンライン制御事業者 | 精算比率 オフライン(代理)事業者 |
---|---|---|---|---|
2024年4月 | 2024年6月分 | 2024年7月分 | 5.06% | -6.54% |
2024年5月 | 2024年7月分 | 2024年8月分 | 7.04% | -10.72% |
2024年6月 | 2024年8月分 | 2024年9月分 | 4.39% | -6.27% |
2024年7月 | 2024年9月分 | 2024年10月分 | ー | ー |
参照 関西電力送配電株式会社
中国電力エリア
代理制御実施月 | オンライン制御 精算比率 | オフライン(代理)制御 精算比率 |
---|---|---|
2024年4月実施分 | 1.84% | -15.04% |
2024年5月実施分 | 0.94% | -9.17% |
2024年6月実施分 | 0.96% | -12.74% |
2024年7月実施分 | 0.02% | -0.55% |
四国電力エリア
代理制御実施月 | 精算月 高圧/特別高圧 | 精算月 低圧 | 精算比率 オンライン制御事業者 | 精算比率 オフライン(代理)事業者 |
---|---|---|---|---|
2024年4月 | 2024年6月分 | 2024年7月分 | 1.58% | -6.12% |
2024年5月 | 2024年7月分 | 2024年8月分 | 4.42% | -16.33% |
2024年6月 | 2024年8月分 | 2024年9月分 | 0.33% | -1.75% |
2024年7月 | 2024年9月分 | 2024年10月分 | ー | ー |
参照 四国電力送配電株式会社
九州電力エリア
代理制御実施期間 | 精算対象月分 | オンライン発電所 旧ルール及び 無制限無補償ルール | オフライン発電所 旧ルール10kW~500kW | オフライン発電所 旧ルール500kW以上 |
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2024年4月1日~ 2024年4月30日 | 2024年7月検針分 | 4.82% | -18.38% | -18.38% |
2024年5月1日~ 2024年5月31日 | 2024年8月検針分 | 6.40% | -23.69% | -23.69% |
2024年6月1日~ 2024年6月30日 | 2024年9月検針分 | 1.32% | -7.82% | -7.82% |
2024年7月1日~ 2024年7月31日 | 2024年10月検針分 | 0.00% | 0.00% | 0.00% |
参照 九州電力送配電株式会社
これから出力制御はどうなってゆくのでしょうか?
太陽光発電所における出力制御の主な原因は、昼間の電力需要(使用量)を太陽光の発電量が上回ってしまうという電力需給バランスの崩れにあります。日中の需要を供給が超過することで、電力系統の安定性を保つために発電の抑制=出力制御が発動されるのです。
では今後、出力制御はどう変化していくのか?その鍵を握るのは、電力の「使用量」と「発電量」それぞれの推移です。現在、日本全体で人口減少が続いており、今後も家庭や工場などの電力使用量が大きく増える要素は見当たりません。産業構造の変化もあり、企業による大規模な電力消費の増加も限定的と見られます。
一方、脱炭素社会の実現に向けた動きが加速する中、自家消費型の太陽光発電設備の導入は着実に増加しています。住宅用・企業用を問わず、昼間に大量の電力を生む発電設備が増えていくのは避けられません。このような状況を総合的に考えると、今後も「発電量 > 使用量」の構図は続く可能性が高く、それに比例して出力制御の頻度や規模も拡大すると予想されます。今後も、電力エリアごとの出力制御率(制御比率)の推移や傾向を注視し、太陽光発電事業者として適切な対応を考えていく必要があるでしょう。