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このような太陽光発電所は危ない! 送電ケーブルの盗難対策を徹底解説!

送電ケーブルの盗難事件増加の背景とは?

太陽光発電所の運営においては様々なリスク要因があります。機械故障、自然災害、出力抑制などありますが、一番深刻な問題となっているのが、盗難被害です。主に外国人の犯罪グループにより太陽光発電所の盗難被害が相次いでいるのです。何を盗られるのか?パネルやパワーコンディショナーと思われるかもしれませんが、銅製の送電ケーブルなのです。
昔から太陽光発電所での盗難事件はありました。しかしながらここ数年で急激に増加傾向にあります。送電ケーブルが狙われる理由の一つは、その価値です。特に2020年のコロナ禍以降の貴金属価格高騰に伴い、銅は高い価格で取引が行われており、闇市場で大きな利益を得ることができます。また、銅製の送電ケーブルは比較的簡単に切断でき、持ち運びもしやすいため、犯罪者にとっては魅力的なターゲットとなっています。

1693 時系列データをもとに作成

では実際に盗難に遭った場合の被害はどのようなものでしょうか?被害の例としては、2022年に山梨県北杜市で発生した盗難事件では、犯人グループがトラックで乗り付けて数人でケーブルを切断して持ち去るという大胆さです。盗られた長さが1.5kmで被害額はおよそ1900万円にもなります。被害はこれにとどまらず、売電収益が途絶えてしまい事業の継続困難になります。また、復旧に必要な費用は9,000万円とも言われており経済的な損失は甚大なものになるのです。
もちろん一番悪いのは犯罪に手を染める犯人であるのは言うまでもありません。しかし、外部要因としても課題は残っています。

買い取り業者

日本国内には貴金属買い取りやリサイクル業者など、廃品を買い取ってくれる業者が多数あり、ほとんどの会社では真面目に営業をしていると思いますが、中には盗難品と分かっていながら買い取る業者が存在するようです。私達の身の回りでこのような買い取り業者が暗躍しているというのは、大変悲しいことですね。太陽光発電関連の盗難事件が減少しないようなら、法規制もやむを得ないのではないでしょうか。

FIT情報の公開制度

FIT制度を利用している発電事業者は専用のWEBサイトで事業者名、所在地、発電出力等を全て一般公開されています。これ自体は透明性のある制度なので良いと思うのですが、一方で誰でも詳細の場所や発電所規模が容易に特定できてしまいます。犯罪組織から見ると、どこに高圧発電所があるのか?運営管理者は誰か?が分かってしまうので、犯罪ターゲットリストの役割を果たしてしまっている側面も否定できないでしょう。

このような太陽光発電所は危ない!

太陽光発電所の区分として住宅用(10㎾以下)・低圧事業用(50㎾以下)・高圧発電所(50㎾以上)・特高発電所(2,000㎾以上)がありますが、一番狙われているのは高圧発電所と言われています。住宅用や低圧事業用発電所も被害にあった例はありますが比較的少ないのです。理由としては発電所規模が小さく、使用されている銅線も少ないからです。犯人側としてはリスクに対してメリットを見いだせないからでしょう。また、特高発電所は銅線の使用量が多いのですが、電気主任技術者が近隣に常駐している場合や警備会社との提携により、防犯体制の整っている発電所が多く、盗難事件の抑止力になっています。一方で50㎾以上2,000㎾以下の高圧発電所は、送電ケーブルやキュービクルに多くの銅線が使用されている割に防犯体制が整っていない場合が多く、犯罪組織のターゲットになるケースが多いのです。

立地面でいうと、圧倒的に狙われているのは、市街地や住宅街ではなく、圧倒的に田園や山間部の人目に付きにくい場所なのです。その中でも雑草が生い茂っており、メンテナンスが行き届いていないと思われる発電所は格好のターゲットになるケースが多いのです。

地域的には東日本であり特に東京電力管区に多いことが分かります。東京電力管区は出力抑制が無いことで有名ですので、関東圏郊外では太陽光発電所運営が盛んです。全国で1番盗難件数が多いのは、茨城県であり、明らかに犯人グループはこのような立地条件にターゲットを絞っているといえるでしょう。

ニュース記事から抜粋して作成

盗難被害がもたらす悪影響

盗難被害に遭うと直接的な経済的な損失だけでなく、間接的にも経済的な負担は増大します。その余波は思わぬ業界にも飛び火しているようです。それは保険業界です。ほとんどの方が太陽光発電所の運営を始める際には保険に加入されますよね。その中でも動産保険に加入されるケースは多いのではないでしょうか。動産保険とは機械設備の故障や盗難をメインで補償対応とする保険です。その保険料が高騰しているのです。盗難時に保険を利用した場合は、次年度の保険料が2倍以上になる、もしくは再契約不可となるケースがあります。また保険を利用していなくても、契約更新時に1.5倍の見積書が出たりしています。保険会社によっては盗難保険の受け付けを停止している保険会社もあるようです。発電事業者は、計画時のキャッシュフロー計算で一定の値上げ率を見込んでいるでしょうが、高騰することは想定外ですので、大きな収益を悪化させる要因になるでしょう。
私の場合は、信販会社のローンに10年間限定で付帯されている動産保険なので10年間は契約更新がありませんが、恐らく10年後には現行の価格帯とはかけ離れた保険料になるだろうと覚悟はしています。このように健全な事業活動にも影響が出ているのです。

盗難被害から身を守るには?

JPEA推奨の防犯対策は有効だと思われますが完全ではありません。また高額な出費が必要になります。盗難被害から身を守るために押さえるポイントは2点です。


①盗難に入られた事後を想定するのではなく、抑止に重点を置く
人里離れた地域であれば、侵入されてしまったら、センサーが稼働しても警備会社が到着するまでに時間がかかっていますので、被害は免れません。ここに侵入するのはハードルが高いと思わせ、思い止まらせる抑止力を強化しなければなりません。


②予算に余裕の無い場合は、低価格で可能な限り対処する
発電所規模が大きく収益額に余裕のある発電所なら、コストを掛けてでも対策が取れるかもしれませんが、小規模な高圧発電所の場合、大きなコストを掛けることができない事情もあります。例えば既に設置されている地上配管を埋設配管にするには、土木工事からしないといけませんので、数百万円の工事になります。対策工事を行ったために、採算が赤字になってしまえば本末転倒です。あくまで予算の範囲内で可能な限りの防犯対策をしなければならないのです。

それでは、比較的低コストで可能な防犯対策とはどのようなものでしょうか?

  • フェンスに有刺鉄線を設置
  • ダミーカメラの複数設置
  • 防犯カメラ撮影中の標識設置
  • キュービクルや配管回りを土嚢袋で固める
  • 法人運営の場合は、社員が交代で見回り実施

犯人グループが犯行に及ぶ前に、「ここに侵入するのは面倒くさいな」と思わせることができれば勝ちなのです。その為には有刺鉄線や土嚢などの物理的な障害を作る必要があるでしょう。少し前に知人が「これからの太陽光発電所は堀を掘ったり、城壁を作って要塞化しないといけないね。」と言っていました。その時は笑っていましたが、本気でそのような時代になるかもしれませんね。

まとめ

盗難事件が業界に様々な影を落としているのは事実です。盗難にあった発電所が復旧まで長期間を要するということは、発電事業者の経済的損失の問題だけでなく、その地域の予定していた電力を確保できないというエネルギー問題にも発展します。再生可能エネルギーが昼間の主力電源化している現在では、日本のエネルギーを守るという観点でも決して盗難犯罪をさせてはならないのです。

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日本というエネルギー資源の乏しい国で、今まで通りの暮らしを送るために何をしなければならないのか?環境に配慮した電気の作り方、賢い電気の使い方をわれわれ一人一人が考えてゆかなければなりません。

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