電気を専門に取引している市場があるって本当?
日本国内で株式や為替など様々な金融商品が取引されているのはご存じかと思いますが、電力を取引している市場があるのはご存じですか?電気が市場取引されていると聞いて驚かれた方もいるのではないでしょうか?市場連動型メニューの普及により徐々に一般化してきたとはいえ、まだ認知度が低いのが現状です。今回は、電力を専門に取引している日本卸電力取引所(JEPX)について解説してゆきます。
まず、JEPXとはどのような組織なのでしょうか。JEPXの正式名称は一般社団法人 日本卸電力取引所(Japan Electric Power Exchange,略称 JEPX)であり、設立は2003年(平成15年)11月28日です。取引会員企業は295社(2024年1月時点)が加盟しています。主な役割としては、小売事業者が需要家に供給する電力を仕入れる場所なのです。ここでは用途に応じた取引市場が存在し、発電事業者と小売事業者が活発に取引しています。
スポット市場はどのような取引をしているの?
スポット市場では、翌日に受渡する電気の取引を行います。電力管区ごとに1日24時間を30分単位に区切り48商品について取引を行います。
(例)東京電力管区における10:00~10:30の時間帯をスポット単価11.00円/kWhで購入
約定方式はブラインド・シングルプライスオークションなので、入札価格によらず約定価格で取引されます。例えば、¥10/kWhで売りの入札を出していても、約定価格が¥15/kWhであれば、¥15/kWhで売られることになります。ブラインドとは、入札時に他の参加者の入札状況が見えないことを指します。
スポット価格の決定方法は?
株式市場や為替市場と同様に、需要と供給のバランスによって決定されます。「できるだけ高く売りたい」売り手と、「できるだけ安く買いたい」買い手との間で合意したポイントが市場価格なのです。需要というのは、使う電力を買う量のことで、供給というのは発電した電力を売る量のことです。供給量が多く、需要量が少ない時には安くなり、供給量が少なく、需要量が多い時には高くなります。
1日のスポット価格推移は、早朝が高く、昼間に安くなり、夕方に再度上昇するU字型になる傾向があります。理由としては、JEPXにはFIT電力(固定買取制度によって売電された電気)が多く含まれており、その中でも太陽光発電の割合が高い傾向にあるからです。特に春先の晴天時には太陽光発電の電力が大量に供給され、電力需要を上回ることがあります。この過剰な発電量は、スポット市場での電力価格を押し下げる要因となり、0.01円/kwhのような安値になることがあるのです。同時にこのように太陽光発電の発電量が需要を上回る場合は、需給バランスが崩れ大規模停電に陥るのを防止するために、出力抑制をかけることになります。出力抑制は太陽光発電事業者の目線では、悩みの種なのですが、市場から購入する小売事業者、需要家の目線では安く購入できる時間帯になるので歓迎されるのです。
市場価格変動の要因は?
スポット価格の1日の推移は前述しましたが、常に価格変動しながらも、中長期では株式市場のようにトレンドを描きながら上下しております。スポット価格の変動要因としては、LNG/石炭価格・電力予備率・インバランス料金が密接に関係しています。
●LNG/石炭価格
LNGや石炭は火力発電所の燃料になります。この火力発電所の燃料になる原材料が値上がりすれば、必然的に発電の価格が上昇し、それがJEPXの市場価格に反映されます。日本ではLNG・石炭をオーストラリアをはじめとした産出国からの輸入に頼っています。そのため、海外の動向によって常に価格変化にさらされています。紛争が起きて輸入できなくなるケースや為替が円安になり価格が上昇するなど、常に外部要因を注視しなければならないのです。
出典 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 天然ガス・LNG価格動向
●電力予備率
電力予備率は資源エネルギー庁から定期的に発表される指標です。電力需要に対して、供給力(電気を発電する能力)がどのくらいの余力を持っているかという指標です。一般的に3%を下回ると逼迫した状態と言われ、発電事業者への増産や民間への節電要請が発表されます。通常は計画的に運用されているので、電力が逼迫することはないのですが、予期せぬ発電所トラブルや急激な気温変化によって、一時的に逼迫することがあります。「電力不足なんて発展途上国の話ではないの?」と思われる方も多いでしょうが、これが日本の現実なのです。
●インバランス料金
インバランス料金というのは一般的には馴染みの薄い言葉ですが、電力価格を決定する上では重要な役割を果たしているのです。小売事業者は需要家に供給する電力を計画して調達しなければなりません。もし、必要な電力を調達できなかったとしたら、送配電事業者が代わりに調達して、その分をペナルティとして小売事業者に請求されます。小売事業者はインバランス料金の請求を回避するために、正確な需要予測・調達計画が求められます。次の機会に取り上げようと考えておりますが、このインバランス料金が電力価格高騰の黒幕的な存在になっているのです。
参考 電力・ガス取引監視等委員会 インバランス料金制度等について
JEPXの市場価格推移は?
電気代が高いか安いかを判断する材料として、大手電力会社(旧一般電気事業者)の価格と比較する機会が多いですが、新電力が大手電力会社より安く需要家へ供給できる要因としては、市場価格が安価であることが一つの条件になります。この市場価格は近年どのような価格推移を辿っているのでしょう
か?
直近5年間の推移を見た時に、最も安かったのが2019年であり、この年の市場価格平均は7円台でした。ちょうどこの頃は新電力と大手電力会社の価格競争が激化しており、激しい需要家争奪戦が起きていました。2020年に入るとコロナウィルスの拡大とともに燃料の輸入に支障をきたすようになり、雲行きが怪しくなってきました。そこへ冬季の需要増加により予備率が低下、さらにインバランス料金の急上昇、あっという間に2021年1月には250円という異常価格に到達したのです。この異常高騰は1ヶ月間で終息したのですが、2022年に入るとLNG産出国のロシアとウクライナの戦争がはじまり燃料価格が急上昇。結果的には2022年の市場価格平均は20円を超えました。2019年のおよそ3倍です。この2022年は電気代が高いとメディアでも騒がれ、政府が激変緩和対策を発表しました。2023年にはLNG価格も沈静化し、2022年をピークに市場価格は大きく下落トレンドに転換しました。この5年間の市場動向を振り返ると今までに例を見ない「激動」という言葉が相応しい期間でした。異常高騰がなぜ起きたのか?またこのような高騰が再発するのか?は別の機会にご説明します。
今後のJEPXは?
過去の異常高騰を教訓として、業界を挙げて軌道修正した結果、JEPXの価格も適正化しました。また、従来のJEPXは新電力が需要家へ供給するための調達元という役割が強かったのですが、近年では大手電力会社も市場価格に連動するサービスを提供するようになってきました。代表的な例としては、東京電力の高圧電力メニューである「市場ハイブリッドプラン(市場連動100%)」や関西電力の燃料費調整額とは別に市場価格に連動する調整価格を用いたメニューです。
また、近年注目されているのは非化石証書の取引です。JEPXにおける非化石証書の取引には小売事業者だけでなく、会員に加盟した需要家も参加できます。この非化石証書とは、購入した企業は、その証書による再生可能エネルギーの利用分を自社のCO2排出量から差し引くことができるシステムになっています。CO2削減をアピールすることにより、投資家や取引先に向けて企業価値向上を目指す企業が増加しています。今後はこのようなケースが増え、更に非化石証書の取引が活性化することが予想されます。
まとめ
2016年の電力全面自由化まではJEPXの存在を知る人も限られていました。会員企業も一部の新電力に限られており、市場価格がどのように推移しているかを積極的に発信されることもありませんでしたので、閉鎖的な市場のイメージが強かったのです。しかし、近年新電力の多くが市場連動メニューを採用するようになり、更に大手電力会社も市場価格を採用するようになったことにより、より身近な存在になってきました。非化石証書の取引がより活発化することにより、単なる取引市場から再エネ発信の場に変革し、JEPXに求められてくる役割も変化してゆくのではないでしょうか。
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